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『教育技術入門』 [書籍]


教育技術入門 (教育技術文庫)

教育技術入門 (教育技術文庫)



『教師修業十年』で向山洋一さん自らが示した分類によれば、この本はタイトル通り、「教師と技術」の仕事に位置づけられるでしょう。その「教師と技術」は、さらに次の二つに大きく分けられていました。

  A 跳び箱を出発点とした教育技術論の展開
  B 「授業論」「上達論」の発展

この本では、向山さんの「技術論」「授業論」「上達論」が語られているのですが、これらの理論が具体的な形になったものが「法則化論文」と言えるでしょう。少し長くなりますが、「法則化論文の創造」から引用します。

   私は、法則化運動が誕生したその時に、すでにいくつかの重要なことばについて検討している。
   その中で、次のように定義を与えている。
   (この当時、このような定義は皆無であった)

    教育技術とは、授業を最も有効に展開する「教材とその配列」や「指示・発問とその配列」のこと。

   これは、「教育技術」の定義としてはある狭さを含んでいる。
   指示・発問にウエイトがかかりすぎているのである。
   しかし、これはこれで歴史的な意味を持っていた。
   法則化運動が誕生するまでは、「教育技術」というのは何なのか、あいまいもことしていた。
   論じる人によってみんなちがうのである。しかもほとんどの人は、教育技術とは何であるのかを定義しないで教育技術を論じていたのだった。
   私は、教育技術の中心は「指示・発問」であると考えていた。
   法則化運動の中では、ぜひとも「発問・指示」を中心にとりあげなければならないと考えていた。
   そこで「一応の定義」として「粗い定義」ではあるが、(このことを断った上で)先の定義を与えたのである。
   この定義から、次のことが導き出された。

    論文などでは「発問・指示」は枠で囲う。

   こうすると、一目で、教育技術が分り、伝えられる。
   また、この定義から「法則化論文」(これに限らず他の人に分ち伝えようと思う論文)の内容をはっきりさせた。

    論文の内容
    1、教材とその配列
    2、指示・発問とその配列
    3、注意・配慮事項
    4、効果(成功率)
    5、エピソード

向山さんは「教育技術」をあえて狭く定義する「技術論」を打ち出して、「指示・発問」を中心とした「授業論」を展開したと考えられます。この点について、上條晴夫さんは上記の部分を引用した上で、「狭さが標準化をイッキに進めた」と指摘しています。(『これだけは身につけたい授業づくりの基礎・基本』学事出版)

「法則化論文」からうかがえる「技術論」「授業論」に加えて、「上達論」に関わるのが「論文審査」です。以下、「認識することと体験することはちがう」からの引用です。

   法則化の合宿では、論文審査というのがある。
   これは「論文の検討」とはちがう。
   例えば私は、応募論文一本につき二分ぐらいの時間で(発表・審査・論評を含めて二分ぐらいで)A、B、Cの三段階に審査していくのである。
   初めての人は、大体がCをとる。内容だけがものを言う審査である。
   論文審査を待つ人の多くは足がふるえている。心臓がドキドキしているのがこちらでも見える。
   心の中ではちょっぴり自信もあるのだが、ほとんどの人はCをとり、ショックをうける。
   ところが、二回目、三回目のときになると誰が見ても分るぐらいに変化してくる。内容がよくなり、書き方もよくなってくる。
   人がちがったと思うほど上達するのである。
   本当は大勢の人による「論文検討」の方がいいのかもしれないが、論文審査を体験した人は「論文検討」より「論文審査」を希望する。圧倒的多数がそうである。
   たった一回の緊張した「論文審査」が、その人に与える影響は測り知れないのである。

向山さんが「論文審査」と「論文検討」を比較した上で、前者を採用しているところが興味深いです。この比較は、授業の腕をあげるためには「研究授業百回」の方が「ストップモーション方式十回」よりすぐれているという、藤岡信勝さんとの論争の中で出てきた話です。「ストップモーション方式」とは「ビデオを用いた授業検討会」「授業記録の書き方」において用いられる方法です。(藤岡信勝『ストップモーション方式による授業研究の方法』学事出版)

論文や授業研究において、「審査」を選択した向山さんと「検討」を選択した藤岡さん、二人の考え方の違いが「運動論」にもつながっているように思えます。

まえがき
Ⅰ 技術は現場の学問
 一 教育技術は教育科学より昔から存在した
 二 教育技術とは何か
 三 「技術」の定義
 四 教育方法とは何か
Ⅱ 教育技術は現場から生み出される
 一 技術は現場から生れる
 二 技術は願望の具体的表現
 三 教育技術を生み出す方法がある
Ⅲ 技術を使いこなす力
 一 技術を身につけるには訓練が必要である
 二 アマはプロにはかなわない
 三 認識することと体験することはちがう
Ⅳ 教育技術の特質
 一 教育技術はさまざまある
 二 教育技術は永久に発展する途上に存在する
 三 教育技術は教師の主体性で選択する
 四 教育技術は実証できなければならない
Ⅴ 本当の「教育技術」研究は、法則化運動と共に始まった
 一 法則化誕生の時の理論
 二 法則化論文の創造
 三 「向山式跳び箱指導」がつきつけた問題提起
 四 教師の努力が浪費される研究方法を越えて
 五 教育技術のデータベースの創造
Ⅵ 教師ならまず身につけるべき五つの教育技術
 一 跳び箱を全員跳ばせる
 二 一時に一事の原則
 三 子どもを動かす法則
 四 全国の教師を驚かせた酒井式描画法
 五 五色百人一首——細分化の原則
Ⅶ プロ教師への道
 一 アマ教師からプロ教師へ
 二 黒帯六条件
あとがき
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コメント 2

石川晋

「論文や授業研究において、「審査」を選択した向山さんと「検討」を選択した藤岡さん、二人の考え方の違いが「運動論」にもつながっているように思えます。」

佐内さん、これ、すごい分析ですね。感服しました。
by 石川晋 (2009-07-02 02:28) 

佐内信之

石川さん、こんにちは。佐内です。

長文にもかかわらず、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。「審査」と「検討」の対比を書きたくて、長々と引用してきたので、ありがたいコメントでした。

もともと、この記事を書いたのは、石川さんの次の原稿に刺激されたからです。

メールマガジン「授業成立プロジェクト(JSP)」
           第190号  2009年6月24日発行
連載「”授業成立”で眠れないあなたのための読書ノート」
  第2回 向山洋一『授業の腕をあげる法則』
      大西忠治『授業つくり上達法』
http://archive.mag2.com/0000158144/20090624010000000.html

この原稿の最後、向山さんの「論文審査」を受けたときの石川さんのエピソードが、とても興味深かったです。向山さんが「描写」の文体を捨てて「発問指示」に焦点化したという話をきっかけに、「審査」と「検討」の対比にたどりつきました。この視点にこだわると、何か見えてくるかもしれませんね。
by 佐内信之 (2009-07-12 21:08) 

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